バレンタインデーが近づくと、この「ほうきとちりとり」のお仕事を思い出す。米国での研修課題の一つに、毎月地域内の異なるモンテッソーリ校を訪ね、その園の朝の2~3時間をじっくり観察して記録するというものがあった。これほど実践的で、勉強になる課題が他にあるだろうかと思うくらい、なかなか刺激的で、その度に考えさせられる課題だった。
2月に訪問したある園で、4歳の女の子が、このほうきとちりとりのお仕事を40回以上繰り返していた。この園では、バレンタインデーにちなみ、ハート型の小さなボタンのようなものをこのお仕事に使っていたので、2月になると思い出すという訳だ。
モンテッソーリ教育の創始者、マリア・モンテッソーリは、「自由と秩序」について、なかなか興味深いことを言っている。「秩序(ディシプリン)が足りない子には、自由が足りない」とか、必要な環境や道具が与えられず、必要な能力が育まれていない状態で子ども達に自由にせよと言うのは、子ども達にとっては、とても不自由なことだとか。
この「お仕事」を例にとれば、2歳や3歳の子どもに、大人サイズのほうきを与えれば、本来の目的はまず達せられないまま終わってしまう(笑)。ただ難しいのは、たとえ子どもサイズの道具を用意したところで、多くの場合は、なんとしてでも自分一人でやってみたい2歳の子どもがほうきをにぎりしめ、懸命にゴミを掃き散らかしては、なぜ上手くいかないのかが分からないまま終わってしまうということだ。
そこで出番となるのが、この床の上の小さな四角。このお仕事に興味を持った子どもには、まずほうきでこの小さな四角に「ゴミ」をかき集めるというお手本を、教師が提示する。小さな子どもであればあるほど(このお仕事に夢中になるのは、2歳-4歳くらいまでの子どもだ)、この一言も声を発しない小さなガイドラインが決定的な助けになり、その子は誰にも邪魔されず、一人でこのお仕事に没頭できるようになる。
たかが四角、たかがほうきとちりとり。でも、冒頭の女の子が40回以上もこの「お仕事」を繰り返したくらい、幼い子ども達は、私達大人とは全く別の成長プロセスの真っただ中にいて、自分の思い通りに、意志の働きの通りに身体を動かしたい、動作を洗練したいという無意識の衝動を繰り返し生きているのだと思う。
自由とガイダンスのさじ加減の難しさは、モンテッソーリ教育に限らず、大人と子どもが共存する世界では、永遠のテーマだと思っている。いや、大人だって、さぁ、明日から勤務時間・仕事内容完全自由!!と言われたら、喜ぶより戸惑う人の方が多いはずだ(笑)。適度なガイダンスと必要な能力を育まれる機会が存在しつつ、自由を与えられるからこそ、各々が最高のパフォーマンスを発揮できるというのは、大人も子どもも同じかもしれない。
いつだって、自由な環境や選択肢を与えてもうまくいかなかった場合には、この小さな四角に値する何か、その子が自力で階段を登るのに欠けているのが何であるかを見極めて環境を整えたい。それに、同じ高さの階段を登るのに、何の助けも必要としない子どももいれば、必要なガイダンスの内容も量もそれぞれ様々だというのが面白い、なんてことを考えている、2月初旬の「子どもの家」です。
“To let the child do as he likes when he has not yet developed any powers of control, is to betray the idea of freedom.... Real freedom, instead, is a consequence of development..." Maria Montessori The Absorbent Child